目の前に美味しそうな果実がある。
いつもは自分を素通りして、他に与えられる甘い果実。
仮に誰も見ていない中、それが自分の前に転がり出たら…。


誰だって撮み食いしたくなると思わないかい?








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「起きてよ、王子様」

肩を揺さぶられて、ゆっくりと目を覚ます。頭の片隅に澱んだアルコールが残っている。完全な二日酔いだ。僕は不本意ながら自分の招いた悲惨な結果を受け入れ、睡魔が潜む海から這い上がる。
目の前に座っているのは、昨夜ここで深く愛し合ったお姫様。雪の様に白い肌と、黒檀の様に黒い髪。そして血の様に真っ赤な唇。ただし、若干倫理観欠落症。今も長い髪で誤魔化しているけれど、実は何も身に付けてない。
僕は横臥したまま、そんな彼女を観賞する。悪くない眺めだが、少々辟易している自分もいる。月光に照らされた甘い果実も、朝陽を浴びれば腐って落ちる。

「おはよう、王子様、素敵な朝ね」
「そうかい?僕はもう少し眠りたい」

そうだ。僕はもう少し眠りたい。言葉にして、初めて自覚する眠気。起きるのじゃなかった。

「さあ、寝所にお帰りよ、お姫様。天敵のお后様を鉄の靴で殺したって、それでお終いになる訳じゃあない。早く部屋に戻らないと、君の夫君にいけない趣味が発覚してしまうよ」
「んもう、何よ、それ」

拗ねた様に唇を尖らせたものの、やはり夫の一文字は偉大だ。夫の寵愛が深いとは言え、黄泉帰りのお姫様。王宮内に敵が少ない訳がない。まして、棚からぼた餅、美貌だけで吊り上げた居場所は、拠り所が圧倒的に少ない。お姫様はドレスを身に付けると、振り返りもせずに出て行った。
僕はもう一度眠りに落ちようとして、慌てて起き上がった。シーツの波間にペンダントが落ちている。手に取ってよく見れば、間違いない、彼女が落としていったものだと知れた。この国の王家の紋章が入っている。ただし、それは王子がお姫様にプレゼントしたものではない。彼女がもともと持っていたもの。実の母親から託されて、継母の迫害に耐えかねて森に逃げる際に持ち出したもの。
それにしても国王陛下も耄碌したものだ。王家の紋章入りのペンダントをしている息子の嫁を見ても、失踪した先妻との娘だなんて思いもしないのだから。それどころか、もともと長い鼻の下を伸びるだけ伸ばして、いつパワハラに及ぼうかと考えてばかりいる。そんな有り様だから、後妻との息子である王太子が、お姫様に操られて母親殺しを実行したって気付きもしない。
さて、どうしたものか。僕はペンダントを弄びながら、しばらく思案に暮れた。そして、すぐに結論を得た。

「関係ないさ」

そうさ、僕には関係ない。そして、腹違いの弟を誑かして王家に返り咲いたお姫様も、言い切るだろう。もう、そんな古臭いペンダントなんて関係ないわ、とね。






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