食卓の上に置いてあったマフィンがなくなった、と騒ぎ始めたのは末息子だった。彼の言うことには食卓には4つのマフィンが置いてあったらしいのだが、そのうちのひとつが消えているというのだ。数え間違えたのではないのかと聞くと、彼は大きな瞳いっぱいに涙を浮かべて泣き出した。絶対に間違いない、と号泣されてはどうしようもない。仕方なく、長男と次男を呼んで話を聞いた。ところが2人は食卓の上にマフィンがあったことさえ知らなかったという。そこで、ふと思った。そもそも、このマフィンは誰が置いたものなのだろうか。
妻は長女と次女を連れて一昨日から出かけている。帰ってくるのは今日の昼過ぎの予定だ。朝食の時分にはマフィンなどなかったことは自分の記憶でも間違いない。その後、長男と次男は部屋に篭って勉強していたらしい。あくまでも自己申告なので真偽の程は確かではないが、少なくともマフィンを買ってきて食卓の上に置いておく様なことはあるまい。自分たちで食べてしまうに決まっている。そもそも、このマフィンがもともと家にあったものなのか、外で買ってきたものなのかもわからない。
食欲を刺激されたのかマフィンを物欲しげに見ている長男と次男を部屋に帰し、さらに末息子を宥めすかして部屋に戻す。それから取って返して食堂に戻ると、やはり、3つのマフィンが食卓の上でチョコンと立っている。試しに食卓の周囲やオーブン、冷蔵庫の中などを確認してみる。しかし消えたらしいマフィンの影も形もない。やはり末息子の数え間違いか、記憶違い?それとも、誰かが食べたのだろうか。どちらかでないと辻褄が合わないのだが。書斎に戻って考えてみるが、よくわからない。
そうしている内に、いつの間にか時間が過ぎていたらしい。呼び鈴が鳴って妻が帰ってきた。慌てて書斎を出てから、何の気なしに食堂を覗いた。マフィンを出しっ放しだったことを思い出したのだ。ところが、食卓の上には何も乗っていなかった。3つのマフィンも4つのマフィンも、どちらもない。驚いて立ち尽くしていると、荷物を抱えた妻が娘たちを引き連れて食堂に現れた。

「あなた、子供たちを呼んできて頂戴。マフィンを3つ買ってきたの。本当は4つ買ったのだけど、あの子達ったら待ち切れなくて1つ食べてしまったのよ…」






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